農業大学校に行けば農業で生きていける?農業を仕事にする現実と将来

保護者向け

農業高校や農芸高校への進学を考えている中学生の中には、植物を育てることや、自然の中で働くことに興味を持っている人もいると思います。

でも、家が農家でなければ、農業を仕事にしている大人に会う機会はほとんどありません。

農業で本当に生活できるのか。農家の子どもでなくても農業の仕事に就けるのか。高校卒業後は大学の農学部に進むべきなのか。それとも農業大学校という道があるのか。

今回は、大阪府の農業大学校と農林水産省の資料をもとに、農業を仕事にするということを考えてみます。

農業で生きるとは、作物を育てるだけではない

農業というと、畑で野菜を育てたり、果樹園で果物を収穫したりする姿を想像します。

もちろん、それが仕事の中心です。しかし、農業で生きていくには、作物を育てる技術だけでは足りません。

・何を、いつ、どれだけ作るかを決める
・土や肥料、病害虫について学ぶ
・天候を見ながら作業を調整する
・農業機械を安全に扱う
・生産にかかった費用を計算する
・売り先を探し、価格を考える
・働く人を採用し、育てる

独立して農家になるなら、農業者であると同時に経営者でもあります。

作物がよくできても、売れなければ収入にはなりません。反対に、雇われて農業をする場合も、決められた作業をするだけではなく、栽培管理、品質管理、出荷、販売などを任されることがあります。

つまり農業とは、自然を相手にしながら、技術と経営の両方で食べていく仕事です。

農家の子どもでなくても農業に就職できる

以前は、農業といえば家族で農地を受け継いで営むイメージが強かったと思います。

今も家族経営は多いのですが、農業の姿は少しずつ変わっています。

農林水産省の資料によると、農業就業者全体は1999年から約25年間で119万人減少し、2023年には181万人となりました。

その一方で、農業で雇われて働く人は同じ期間に27万人増え、2023年には55万人となっています。

法人などが農地や生産規模を広げ、従業員を雇う農業が増えているからです。

さらに、2023年の49歳以下の新規就農者では、農業法人などに就職する雇用就農者が全体の約4割を占めています。

その約9割が非農家出身です。

これは、かなり大きな変化です。

農地を持って生まれなくても、まず農業法人に就職し、給料を受け取りながら技術や経営を学ぶ道が現実的になっています。

道府県立農業大学校の養成課程から農業に進んだ人を見ても、就農者の約6割が雇用就農です。

農業は、家業を継ぐ人だけの世界ではなくなりつつあります。

農業大学校とはどんな学校なのか

道府県立の農業大学校は、将来の農業経営者や農業技術者を育てる教育・研修機関です。

農林水産省によると、全国41道府県に設置されています。

標準的な養成課程は2年間で、講義と実習がおおむね半分ずつです。

野菜、果樹、花、稲作、畜産など、地域や学校によって学べる分野は異なります。

大阪府の大阪農業大学校では、1年次に野菜や果樹の栽培を一通り経験し、2年次には担当する畑で栽培管理を行います。

農業機械、土壌肥料、病害虫だけでなく、会計、税務、マーケティング、スマート農業などについても学びます。

ここに農業大学校の強みがあります。

教室で農業について知るだけではなく、自分で植え、管理し、収穫し、販売するところまで経験できます。

農家での実習やインターンシップを通して、農業の仕事の速さや厳しさを知り、就職先とのつながりを作ることもできます。

一般の大学の農学部とは何が違うのか

農業大学校と、近畿大学などの農学部は、名前が似ていても役割が違います。

農業大学校の主な目的は、農業法人への就職や独立就農など、農業の現場で働くための実践的な技術を身につけることです。

養成課程は主に2年間で、実習の割合が高くなっています。

一方、一般の大学の農学部は原則として4年間です。

農業生産だけでなく、食品、生命科学、環境、バイオテクノロジーなどについて、講義、実験、研究を通して幅広く学びます。

大学を卒業すると、学士の学位を取得できます。

大阪農業大学校は、学校教育法に基づく一般的な大学ではありません。そのため、修了しても大学卒業という扱いにはなりません。

どちらが上という話ではありません。

農業生産の現場に早く入りたいなら、農業大学校が合いやすいでしょう。

食品、研究、環境、バイオなども含めて、将来の選択肢を広く持ちたいなら、大学の農学部が合いやすいと考えられます。

農業大学校の学費が安いのはなぜか

農業大学校の大きな特徴は、学費の安さです。

大阪農業大学校の2026年度実績では、2年制の総合課程の養成料は年額14万6,600円です。

入学検定料と入学金は必要ありません。

このほか、教科書、実習服、農家実習、校外学習、傷害保険などの費用として、1年次に約16万5,000円、2年次に約14万5,000円が必要です。

単純に合計すると、2年間で約60万円です。

一般的な私立大学と比べると、かなり安い金額です。

学費が安い理由は、一般の私立大学のように、学生から集めた学費で学校経営を成り立たせることを主な目的としていないからです。

道府県立の農業大学校は、地域の農業を支える人材を育成する公的な教育・研修機関です。

農業の担い手不足は、食料生産だけでなく、農地や地域社会を維持するうえでも大きな問題です。

そのため、行政が公費を使って農業人材を育成しています。

ただし、学費が安いから得というだけで選ぶ学校ではありません。

学校教育法上の大学ではない学校もあり、大卒資格が得られない場合があります。学生割引、奨学金、大学への編入資格などの扱いも、学校によって異なります。

入学前に必ず確認する必要があります。

農業大学校の入試は簡単なのか

大阪農業大学校の2027年度入学生向け総合課程は、定員20人です。

推薦入学では、基礎数学、作文、面接が行われます。

一般入学では、国語、数学Ⅰ、理科または農業と環境、面接が課されます。

一般大学の難関入試と比べれば、試験科目や範囲は限られています。

しかし、定員が少ないため、誰でも合格できるとはいえません。

また、卒業後に大阪府内で農業や農業技術の仕事に就く意思も求められます。

農業大学校の入試で大切なのは、偏差値だけではありません。

なぜ農業を学びたいのか。

暑さや寒さの中でも作業できるか。

栽培だけでなく、販売や経営についても学ぶ覚悟があるか。

将来、どの地域で、どのような農業に関わりたいのか。

こうしたことを、自分の言葉で話せる必要があります。

学校によっては、応募者が定員に満たない年もあると思います。

ただし、定員割れなら簡単に入学できて、卒業後も安心だと考えるのは危険です。

学校に入学する難しさと、農業で働き続ける難しさは別物だからです。

農業大学校を出たら就職できるのか

農業関係の就職先は、想像しているより少なくありません。

大阪農業大学校では、2025年度に正社員の求人を出した法人が38社ありました。

そのうち23社が農業法人です。このほかに、府内の農家からの求人もあります。

過去10年間の卒業後の進路は、次のようになっています。

・雇用就農 36.4%
・農業関連企業などへの就職 33.2%
・独立就農 19.3%
・その他 11.1%

就職先は農業法人だけではありません。

JA、農業機械、農薬、農業資材、青果販売、農産物の流通、公務員、体験型農園など、農業を支える仕事もあります。

大阪農大の2022年度から2026年度までの卒業生データを合計すると、次のようになります。

・独立就農 18人
・雇用就農 28人
・農業関連企業などへの就職 26人
・進学など 8人

農業大学校で学んだ後の道は、独立して農家になることだけではありません。

農業法人に就職する。JAや農業関連企業で働く。農業技術者として農家を支える。

さまざまな進路があります。

ただし、求人があることと、よい就職先に入れることは同じではありません。

農業は人手不足。でも労働環境は勤務先で大きく違う

農林漁業の有効求人倍率は2014年以降、1倍を超えています。

これは、仕事を探している人よりも求人の方が多い状態を意味します。

農業法人の約半数が、経営上の課題として人材育成や労働力を挙げています。

農業で働きたい人にとっては、チャンスがある状況です。

しかし、人手不足だから安心だと考えるべきではありません。

農林水産省の調査では、農繁期でも、1日の実労働時間が8時間以内の経営体は約7割でした。

一方で、1週間の実労働時間を見ると、約半数が40時間を超えています。

1か月の休日が4日以上ある経営体は約7割です。

裏返せば、十分な休日を確保できていない職場もあるということです。

時間外労働や休日労働について、法律で定められた割合以上の割増賃金を支払っている経営体は約4割でした。

割増賃金を全く支払っていない経営体も約2割あります。

農業では、天候や季節によって仕事量が変わります。

収穫期には朝が早くなり、暑い時期にも外で作業しなければなりません。

労働基準法でも、農業には労働時間、休憩、休日などについて、一部の規定が適用されない場合があります。

そのため、就職前に労働条件を自分で確かめることが、ほかの仕事以上に重要です。

農作業には事故の危険もある

農業の安全面も軽く考えることはできません。

2022年に発生した農作業死亡事故は238人でした。

就業者10万人当たりの死亡事故者数は11.1人となっており、ほかの産業と比べても高い状態です。

死亡事故のうち、63.9%が農業機械の作業に関係する事故でした。

特に、トラクターなどの機械が転落、転倒する事故が多くなっています。

熱中症による死亡も29人ありました。

農業は、自然の中でのんびりと働く仕事ではありません。

農業機械を正しく扱う知識や、暑さの中で自分の体を守る判断力が必要な仕事です。

農業法人を選ぶときに確認したいこと

農業法人へ就職するなら、作っている農作物や給料だけで決めるべきではありません。

次のような点を確認する必要があります。

・雇用契約書があるか
・月給、賞与、昇給の仕組みが明確か
・社会保険や労災保険に加入しているか
・農繁期と農閑期の勤務時間はどうなっているか
・年間休日は何日あるか
・残業代や休日手当はどのように扱われるか
・有給休暇を実際に取得できるか
・農業機械の安全教育があるか
・熱中症対策が行われているか
・若い従業員を育てる仕組みがあるか
・経営者が将来の方針を説明してくれるか
・独立を目指す場合、農地、資金、販売先について学べるか

農林水産省の調査では、雇用就農者が就職前に重視したこととして、安定した収入、経営者の人柄、ハラスメントがないこと、社会保険への加入などが挙げられています。

農業だから労働条件が多少悪くても仕方がないと考える必要はありません。

農業法人も、若い人に選ばれるためには、ほかの業界と同じように労働環境を改善しなければならない時代になっています。

農業大学校のインターンシップは、就職先を見極めるうえでも役立ちます。

作業内容だけでなく、経営者が従業員にどのように接しているか、先輩がどのような働き方をしているかを見ることが大切です。

大阪や東京に住みながら農業を仕事にできるのか

大阪や東京などの都会に住みながら、農業を仕事にすることも可能です。

ただし、都会の中心部に住み、すぐ近くの畑に通うという働き方は限られます。

大阪でも、堺市、八尾市、岸和田市、和泉市、羽曳野市、柏原市、能勢町などでは農業が行われています。

大阪農大の卒業生も、水なす、ぶどう、いちじく、トマト、軟弱野菜などの生産に携わっています。

都市の消費者に近いことを生かして、直売、観光農園、飲食店との取引、少量多品目の生産などに取り組む農家もあります。

一方で、農地は郊外に多く、早朝から仕事が始まることもあります。

通勤時間や自動車免許の必要性については、現実的に考えなければなりません。

東京も同じです。

東京都内の農業法人や農園で働くほか、埼玉県、千葉県、神奈川県などへ通勤する、あるいは農業が盛んな地域へ移住する選択肢もあります。

都会に住むか地方に移るかを先に決めるのではなく、どのような作物を扱い、どのような働き方をしたいのかを考えることが大切です。

働きながら学べる短期実践課程もある

大阪農業大学校には、働きながら1年間学べる短期実践課程もあります。

農業の基礎知識はWeb授業で学び、原則として週1回、農業大学校の畑で実習します。

野菜コースと果樹コースがあり、農業機械の操作やメンテナンスについても学びます。

2027年度向けの案内では、募集定員は野菜コースが25人、果樹コースが20人です。

養成料は年額8万6,000円で、このほかに教材、傷害保険、実習用具などの費用として約6万円が必要です。

別の仕事を続けながら農業を試したい社会人や、農業への参入を考えている法人の職員には魅力的な制度です。

一方で、中学校や高校を卒業した後、本格的に農業で働く準備をしたい人には、実習時間が多く、就職支援も手厚い2年制の総合課程の方が合いやすいでしょう。

短期実践課程の定員がそれほど多くないのは、農業の市場が小さいからという理由だけではありません。

畑、農業機械、実際の作物を使った実習では、安全を確保しながら一人ひとりを指導できる人数に限界があります。

中学生や高校生は今、何をすればよいか

農業に少しでも興味があるなら、今すぐ進路を決める必要はありません。

まずは、実際の農業に触れることです。

農業高校や農芸高校のオープンスクールに参加する。

農業大学校の実習を見学する。

農業体験や収穫体験だけでなく、できれば農家の普段の作業を見せてもらう。

直売所で、どこで誰が作った農産物なのかを確かめる。

農業法人のホームページで、求人や働き方を調べてみる。

こうした経験を通して、自分が農業のどの部分に興味を持っているのかが少しずつ分かってきます。

そして、高校では農業だけでなく、数学、理科、国語も大切にしてください。

肥料の濃度、畑の面積、収穫量、原価などを計算するためには、数学が必要です。

植物や病害虫について理解するには、生物や化学が役立ちます。

自分で作った農産物を売り、就職し、周囲の人と協力するためには、文章を読み、自分の考えを伝える力が必要です。

農業は、勉強が必要ない人のための進路ではありません。

さまざまな知識を、実際の仕事に結びつけて使う進路です。

農業はなくならない仕事だが、何もしなくても残れる仕事ではない

人が食べる限り、農業そのものがなくなることはありません。

しかし、すべての農家や農業法人が、今と同じ形で残るわけではありません。

人口減少、農業資材の価格上昇、気候変動、後継者不足など、農業を取り巻く環境は厳しくなっています。

その一方で、農業法人の増加、経営規模の拡大、スマート農業、農産物の直接販売、食品加工、観光との連携など、新しい動きも進んでいます。

これからの農業で必要とされるのは、昔からのやり方を繰り返すだけの人ではありません。

作物を育てる力に加えて、数字を見ながら仕事を改善し、人と協力し、農産物の売り方まで考えられる人です。

農業大学校は、入学すれば将来が自動的に保証される学校ではありません。

しかし、農家ではない家庭に生まれた若者が、農業の技術を学び、現場とのつながりを作り、農業法人への就職や独立就農へ進むための、かなり現実的な入口です。

農業に興味はある。

でも、まだ農業について何も知らない。

それは弱みではありません。

現在の若い雇用就農者の多くも、非農家出身です。

大切なのは、農業を必要以上に美化することでも、厳しさだけを見て諦めることでもありません。

まずは実際の農業を見て、自分に合う働き方を探すことです。

農業を仕事にする道は、私たちが思っているよりも広がっています。

【参考資料】

・農林水産省 農業分野の労働環境改善をめぐる現状と課題
・農林水産省 農業大学校等の紹介
・農林水産省 新規就農者調査
・大阪府立環境農林水産総合研究所 大阪農業大学校2027学生募集案内
・大阪府立環境農林水産総合研究所 総合課程学生募集要項
・近畿大学 農学部の教育方針
・公益社団法人日本農業法人協会 都道府県農業法人組織の一覧

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